私たちは普段、無意識のうちに多くのことを脳で記憶し、過去の経験に基づいて判断し、行動しています。
「あのお客様の単価は大体これくらい」「在庫はまだ棚にあったはず」
確かに、頭の中にある引き出しから記憶を取り出すのが一番早いですし、メモ帳やExcelさえあれば、小規模なうちは事足りるのも事実です。
しかし、事業が続けば続くほど、そして取引が増えれば増えるほど、「人の記憶」は曖昧になり、限界を迎えます。
その限界を超えて無理に覚えようとすると、本来経営者が使うべき「判断力」や「創造力」が、単なる「記憶維持」のために消費されてしまうのです。
システム開発の原点
私が業務システムの開発に取り組んだ最大の理由は、
「『覚える』作業はすべてシステムに任せて、人が扱える情報の質を高めること」にありました。
膨大な記録を、必要な時に、誰もが間違いない状態で取り出せるようにする。
それこそが、システムを導入する本来の意義だと考えています。
システムに委ねるべき「5つの記憶」
具体的に、どのような業務を脳から切り離し、システムという「外部記憶装置」に移すべきでしょうか。私は以下の5つの領域が重要だと考えて設計を行いました。
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1. 販売の記憶(いつ、誰に、いくらで売ったか)
「あの時の見積もり金額」を感覚で決めず、過去の正確な履歴を一瞬で呼び出すことで、適正な価格交渉が可能になります。
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2. 在庫の記憶(いま、何が、いくつあるか)
棚を見に行かなくても、手元の画面で数がわかる。過剰在庫や欠品による機会損失を防ぐには、記憶ではなくデータが必要です。
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3. 仕入の記憶(原価は適正か)
原材料や仕入れ値の変動は、利益に直結します。過去の推移を記録しておくことで、コスト削減のヒントが見えてきます。
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4. 経費の記憶(無駄遣いはないか)
領収書の山を後でまとめて整理するのではなく、発生した瞬間に記録する。これで確定申告の憂鬱から解放されます。
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5. 対応の記憶(トラブルや約束事)
お客様との細かな約束や、過去のトラブル対応。これらを属人化させずチームで共有することが、組織の信頼に繋がります。
これらをシステムに任せることで、あなたの脳は「記録係」から解放されます。
空いた容量で、新しい商品のアイデアを考えたり、お客様へのサービスの質を高めたりすること。
それこそが、経営者がシステムを持つ本当のメリットなのです。
今回は、私が開発した「NSRA-KEIRI」システムにおいて、特に重要視して実装した5つの管理機能と、その設計思想について解説します。
目次
- 生産管理システム:現場の「時間」と「異常」を見える化する
- 資材(仕入)管理システム:利益の源泉をコントロールする
- 販売管理システム:記録から「未来の構想」へ
- 勤怠管理・給与管理:公正な評価と会社存続のために
- 報告書管理:埋もれがちな「知恵」を資産にする
1. 生産管理システム:現場の「時間」と「異常」を見える化する
工場には多くの機械があり、それぞれ処理スピードや特性が異なります。これらをシステム化する際、私が最も意識したのは「最初からすべてを取り入れない」という点です。
段階的な導入とカスタマイズ性
すべての要素を一度に取り入れようとすると、開発は遅れ、現場も混乱します。主要となる要
素でまずはシステムを構築して運用し、必要であれば新しい要素を組み入れる。この「小さく始めて育てる」アプローチが成功の鍵です。
データから予兆を掴む
システムによって処理量が可視化されると、単なる記録以上のものが見えてきます。
- 時間の計算: 正確な生産終了時間がわかり、精度の高い生産計画が立てられます。
- 異常の検知: 直近のデータを並べてグラフ化することで、「いつもと違う動き」を直感的に発見できます。
- ドタバタ回避: 精度の高いデータ蓄積があれば、余裕を持った計画立案が可能になり、トラブル発生時も即座にリカバリー計画を策定できます。
2. 資材(仕入)管理システム:利益の源泉をコントロールする
製品を作るための「部品」や「材料」の管理は、単に在庫を数えるだけではありません。
リードタイムとフィードバック
発注してから納入されるまでの「リードタイム」を管理することで、生産計画に正確にフィードバックできます。「いつまでに材料を用意すべきか」が分かれば、余分な在庫を持たずに済みます。
価格変動の監視
特に重視しているのが、仕入金額の推移分析です。価格変動が激しい資材の単価を監視することは、最終的な会社の利益を予測する上で非常に重要です。
また、「最近使用が少なくなった資材」の傾向を早期に掴むことで、廃棄処分となる長期在庫のリスクを防ぐ機能も重要です。
3. 販売管理システム:記録から「未来の構想」へ
顧客からの受注、出荷、売上。これらは「過去の記録」ですが、システム化の真の目的は「未来の予測」にあります。
多角的な分析
販売実績をシステムに蓄積することで、以下のような傾向が見えてきます。
- 取引先ごとの好不調
- 主力商品のライフサイクル
- 業界全体の傾向や、季節性の変動
これらの指標を、必要な時にワンクリックで取り出せるようにしておくこと。これは営業活動だけでなく、経営判断のスピードを上げるために不可欠な要素です。
4. 勤怠管理・給与管理:公正な評価と会社存続のために
経営において人件費は最も大きなファクターの一つです。システム化においては、以下の2点を重視しました。
- 公正な評価: 正確な勤怠データは、仕事に従事する人たちの公正な査定につながります。
- 経営へのインパクト把握: 会社を運営するためにどれだけの人件費が必要か、損益にどう影響するかをリアルタイムに把握することは、会社の存続に関わります。
また、昨今は労働法への対応も厳格化しています。残業時間の自動集計など、健全な労働環境を守るためにもシステムによる管理は必須です。
5. 報告書管理:埋もれがちな「知恵」を資産にする
私が個人的に最も効果を感じているのが、この「報告書管理」機能です。
通常の業務システムでは見落とされがちですが、以下のような「定性的なデータ」こそ、会社の資産です。
- 顧客との面談記録
- 社内部署間での決定事項
- 機械の障害対応記録
- 製品の不適合(クレーム)記録
記憶より記録
「去年のあの件、どうなったっけ?」とメールを掘り返すのは時間の無駄です。
障害対応で復旧に精一杯な時こそ、後から記録を残すことで、次回同じトラブルが起きた時の復旧時間が劇的に短縮されます。
経営者がすべての現場に立ち会えなくても、システム上の報告書を見ることで状況を把握できる。これもシステム化の大きなメリットです。
まとめ
人は脳で記憶し判断しますが、その容量には限界があります。
「記憶」をシステムに依存(アウトソーシング)し、空いた脳のリソースを「創造」や「判断」に使う。
これこそが、私が考えるシステム管理のあるべき姿であり、このアプリの開発思想でもあります。